本社所在地:東京都大田区下丸子3丁目30番2号
設立:1937年8月10日
代表:代表取締役会長兼社長 CEO 御手洗 冨士夫
業種:電気機器(プリンタ・複合機/カメラ/防災・防犯機器/医療用電子機器)
従業員数:170,340名(※連結 2024年12月31日現在)
部署・役職名:人事本部 人材・組織開発センター
ご担当者氏名:梅本 怜 様(写真 右) 木俣 弥生様(写真 左)
(取材日:2024年5月/取材協力: ProFuture株式会社『HRプロ』)
8年ぶりの展示会「Canon EXPO 2023」で技術者が説明員を担当。高度な接遇マナーと説明力が必要だったが、多くの技術者は新入社員研修以来マナー教育を受けておらず、顧客対応力強化が急務となった。
技術者が製品や開発背景を直接語ることで価値を伝える方針を決定。営業活動も視野に入れ、将来のセールスエンジニア育成を目的に研修を企画。複数社比較の結果、講師の質と柔軟な対応力でパソナHRソリューションを選定。
展示会は大成功。社員の説明力・ホスピタリティが向上し、来場者評価も高い。受講者間の横のつながりや仲間意識も醸成。今後は「自発的な学び」を軸に、変化対応力を高める教育体制を整備し、外部知見を活用して進化を継続。
中長期経営計画「グローバル優良企業グループ構想」を進め、大胆な構造改革を進めているキヤノン株式会社。事業ポートフォリオの転換を進める中、イノベーション創出にも力を入れています。 2023年10月、新しいキヤノングループの姿を対外的に発信すべく、8年ぶりとなる展示会「Canon EXPO 2023」が開催されました。グループの総力を挙げて行われたこの展示会では、技術者が自ら説明員として来場者に接することになりました。そこで、「Canon EXPO2023」の成功に向けてパソナHRソリューションの接遇マナー研修を導入されました。
今回、導入の背景から実際の研修内容、成果や評価、そして今後の人材育成ビジョンについて、キヤノン株式会社 人事本部 人材・組織開発センターの梅本様、木俣様にお話を伺いました。
梅本氏:キヤノンは、独自の光学技術や画像処理技術を産業用の機器に応用し、幅広い産業分野のニーズに応える製品を展開しています。カメラや複写機といったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
近年では、AIやDXといった時代の要請に応じながら、世界中で親しまれ尊敬される真のエクセレントカンパニーをめざし、中長期経営計画である「グローバル優良企業グループ構想フェーズVI」の下、「戦略的大転換」を推し進めています。具体的には、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの4つの事業を核としたBtoBビジネス中心の事業ポートフォリオに入れ替えました。
木俣氏:戦略的大転換」に伴い、事業競争力を高めイノベーションを創出するために、各事業・グループ会社がもつ技術や人材の連携を深めています。特にソフトウェア開発の需要拡大を背景として、ソフトウェア技術者を育成する研修施設「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を東京・大田区の本社近くに立ち上げました。
また、人的資本経営の重要性が増す中で、社内での人材流動性を高めるべく、職種転換を伴う「研修型キャリアマッチング制度」も開始しています。
梅本氏:キヤノンでは2023年10月、「Canon EXPO 2023」(以下、EXPO)を開催しました。事業ポートフォリオを大転換したキヤノンの技術や未来について発信するグループ最大の展示会で、 2015年以来8年ぶりの開催でした。そこでは、従来とは大きく異なるポイントがありました。それは、展示会で製品・サービスや技術について説明をする「説明員」を、キヤノングループの技術者が務めることです。
お客さまにわかりやすく説明をするには、高いレベルの接遇マナーが不可欠です。しかし、これまで技術者の多くは接遇マナーの研修を新入社員時に受講して以来、ほとんど受けたことがありませんでした。そこで、説明力とホスピタリティを習得するためには、しっかりとした外部講師による研修が必要だと判断しました。
梅本氏:技術の進化のスピードが早く複雑化していることが一番の理由です。技術に加え、製品・サービスへの思い、開発の背景、将来性について一番語れるのは、その技術を担当する技術者に他なりません。だからこそ今回は、社員が展示の最前線で説明をすることにこだわりました。
また、EXPOにとどまらず、その先の営業活動も見据えた判断でもありました。技術が複雑化する中、今後は技術者が営業と共に最前線に出る機会も増加する可能性も考えられます。将来のセールスエンジニア育成につながることを想定し、今回の研修を実施しました。
木俣氏:対象となる社員は約900名、期間は1年間という大規模な研修でしたから、複数の会社から提案をいただきました。その中でパソナHRソリューションに決めた理由は、カリキュラムの内容や営業の方のサポート体制もありましたが、最も大きいのは講師の方々の質の高さです。
木俣氏:選定段階で、実際に講師の方に接遇マナー研修のデモンストレーションをしていただきました。その際、ただ「こういうマナーに決まっている」と教えるだけではなく、一つ一つの所作の成り立ちや背景も丁寧に添えて説明してくださったのです。今回の研修対象者は技術者で、論理的思考性が高い傾向があります。だからこそ、マナーを形だけではなく「なぜそうなっているのか」、その所作の理由もセットで教えてくださる方が、技術者には腹落ちしやすく、スムーズに身に付けられるだろうと考えました。
梅本氏:2023年10月のEXPOに向けて、2022年の秋から研修を開始しました。最初に実施したのは、接遇マナーの基本を学ぶeラーニングです。その後、集合研修を対面で実施しました。そうして基礎を身に付けた後は、応用編として、論理的な話し方や話す所作のポイントに重きを置いたeラーニングと、集合研修を行いました。集合研修のグループは20~30名単位で、所属部署や役職もさまざまな人材で編成をしました。
基礎・応用のeラーニングと集合研修を実施した後は、半年間のOJT期間を設けました。ご存じの通り、接遇マナーは一朝一夕で身に付くものではありません。そのため、研修で学んだことを現場で実践して自分のモノにする期間としてご提案をいただきました。OJT期間中は課題シートを各受講者に配布して、課題感を持って成長してもらえるよう工夫しました。そしてEXPO直前に、本番を想定した最終ロールプレイング研修を集合で実施したのです。
木俣氏:一般的なマナーはもちろん、所作やロジカルプレゼンテーションについても研修で学んでいたため、OJT期間では業務のあらゆる場面で学んだことを活かすチャンスがあったと思います。但し、学んだことを半年間ただただ実践するだけでは、成長度合いにバラつきが生じてしまいますし、迷いを感じる人もいるかもしれません。
そこで受講者たちが自学自習できるように、振り返り用動画をつくりたいとパソナHRソリューションにお願いをしたところ、すぐに対応をしていただけました。その動画を各自で見て振り返りながら、直前のロールプレイング研修に向けて準備することができたため、自信を持って臨むことができたと思います。
木俣氏:EXPO当日、ご来場のお客さまに自信に満ちた笑顔で対応する社員たちの姿がありました。彼らの表情と立ち姿を見れば、この研修が成功だったことは一目瞭然でした。1年の間に、所作やプレゼンテーションスキルだけではなく、気持ちの醸成もできたのだと思います。研修講師の方々もプライベートの時間を割いてEXPO会場へ来場してくださったそうで、うれしそうに報告してくれた社員もいました。
研修を受講した社員同士の輪、横のつながりが生まれたことも、研修の大きな成果です。年齢も役職も多様な社員たちが同じ研修を受けることは、当社ではかつてない試みでした。「EXPOの成功」という同じ目標に向け、フラットな関係性の下、苦楽を共にすることで、仲間意識が培われたのだと思います。EXPO当日、そんな仲間の存在も安心感につながったのではないでしょうか。
木俣氏:そうですね。「展示会は、お客さまファーストです」という言葉を、講師の方が何度もおっしゃっていました。EXPOにご来場されるのは、社外の方ですし、技術者ではない方がほとんどです。そういった方に対して、相手が何を求めているのかを汲み取りながら説明をするスキルや心構えを与えていただけた研修でした。
梅本氏:技術者が直接応対をすることで、掘り下げた会話ができたり、熱量を直接伝えられたりすることから、評判は上々でした。EXPOには内定者も来場していましたが、研修を受講した説明員が積極的に声を掛けて説明している姿が見られました。内定者のモチベーションアップにもつながったのではないかと思います。EXPO最終日はキヤノングループの社員デーとして、グループ各社の社員が来場しました。自社の技術や将来性について、技術者本人から話を聞くことで、改めて会社の魅力を発見できたという声もありました。
木俣氏:柔軟かつスムーズなご対応をいただき、非常にありがたかったです。今回、研修は下丸子(東京都大田区)、宇都宮、滋賀の3拠点で実施しました。加えて、900名という人数規模のため、講師の方の日程や会場の調整が非常に難しかったのではないかと思います。担当者の方の差配がなければ、これほどスムーズに進めることはできませんでした。また、研修カリキュラムの内容や、OJT期間の復習動画作成など、こちらのさまざまなお願いや相談にも快く対応いただけました。
木俣氏:eラーニングと対面集合研修の組み合わせにより、接遇マナーを体系的に身に付けられる、精度の高いカリキュラム構成でした。知識を習得して体感し、フィードバックをいただき、内省をした上でOJTにて実践する、非常によくできた構成でした。そして最終的にその集大成としてロールプレイをすることで、本番に向けて自信をつけていくことができたのだと思います。
梅本氏:知識だけ、講義だけではなく、実践とフィードバックを重視した内容でした。自己紹介や、ロールプレイの様子を撮影してフィードバックをいただけるなど、受講者本人たちも一つ一つ納得しながら成長できたはずです。また、今回は規模の大きな研修で、複数の講師の方にご対応いただきましたが、内容のバラツキもなく、情報共有もしっかりとされていらっしゃると感じました。
梅本氏:教科書で学ぶのとは異なる、体感して得られるものが大きかったことは、受講者たちの表情を見るだけでわかりました。講師という立場だと、ともすると“上から目線”に捉えられてしまう可能性もあります。しかし、パソナHRソリューションの講師の方々は一切それを感じさせることはありませんでした。
木俣氏:朝は硬かった受講者の表情が、研修の中でどんどんほぐれ、最後には笑顔になっていたことが印象的です。1日を良い表情で終えられるような研修の組み立てができる講師の方々の力量に感銘を受けました。そして、回数を重ねるごとに当社の特徴もとらえ、社内用語や社員が使いがちな言い回しについても、具体的にフィードバックをしてくださいました。ロールプレイ動画を一人一人見てフィードバックをすることも、非常に手のかかることだったと思います。それでも、一人一人に対して丁寧かつ相手を下げず、傷つけないコミュニケーションをしてくださいました。
木俣氏:実はキヤノンでは、研修の7割を内製で行っています。内製研修の良い面は、企業理念や技術、「らしさ」が受け継がれていくことです。
一方で、世の中の変化に対応できる人材を育成するのは、自社の中だけでは難しいという側面もあります。だからこそ、さまざまな事例をご存じであるパソナHRソリューションに今後も協力をお願いしたいと思っています。
梅本氏:一言で言うと、「自発的な学び」です。当社は創業期から受け継がれる「自発・自治・自覚」の「三自の精神」がありますが、その一つの「自発」に重きを置いていきたいと考えています。人生100年時代、変化の激しい世の中を生きていくには、企業が教育の機会を提供することはもちろんですが、社員自身が自ら必要な知識やスキルを考え学んでいく姿勢を醸成することが大切です。
そして、社員が自発的に学びたいと思った時に、その想いに応えられるような教育体制を整えることが、私たち人事の大きなミッションだと考えています。